これは、年収200万円で、30代で1億円を貯めた実話を元にした小説です。
全8話:
1. 出会い -憧れの生活-
2. 教えられたこと -使うためではなく増やすために貯金する-
3. 貯金開始、お金を増やしていく秘訣
4. お金が貯まる人と貯まらない人の差
5. お金を貯めるという事-必需品を見直す-
6. 節約における勘違い-安物買いは節約にあらず-
7. 支出を減らした後は収入を増やすこと
8. ユンとの別れ-豊かな未来へ向けて-
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7. 支出を減らした後は収入を増やすこと
徹底的に全ての支出をゼロから見直し、不必要なもの、本当に究極的に必要なもの以外は全て削った。
ただ、月収が20万円ちょっとの雄一には、仮に支出を極限まで減らしたとしても、小森のように学生時代から少しずつ初めていたわけではなかったので、どうしてもある程度の金額が貯まるには時間がかかってしまう。
そこで、小森に教えてもらったように、映画のレビューブログにネット広告を入れ、広告収入を得るようにした。
色々と試行錯誤をしながら記事を書いていくと、徐々に訪問者も増え、約1年後にはブログからの広告収入で月5万円程度を稼げるようになっていた。
もちろん、雄一はこの5万円と、給料からの10万円を全て貯蓄に回し、約1年後には、貯金額は500万円を超えていた。
「おめでとう!頑張ったわね!」
「ありがとうございます。」
あれから2,3ヶ月に1度は顔を出していたが、ついにこの報告をできる時がきた。
雄一としては、まだまだ達成感を感じるというような気分ではなかったのだが、ここまで手放しで褒められると悪い気はしなかった。
「苦しい時もありますけれども、段々と楽しくなってきました。少しだけ心にゆとりができてきましたよ。」
「ええ。凄いわ。正直、あなたに初めてこの話をした時は、ここまで頑張れるとは思ってなかったから。」
「ユンさん、酷いですね。」
少し意地悪そうに言われたので、雄一も少しふざけてふてくされたようなそぶりをした。
「本当よ。今まで今話をした人は他にもいたけれど、みんな我慢できずにお金を使っちゃうのよ。」
「僕も旅行に行きたくなることはあります。仕事で休みがもらえた時なんかは特にそう思います。
でも、10年先の本当に何の気兼ねもなく自由に旅行に行ける時を想像して、今は我慢してます。」
「偉いわね。…..さて。」
ユンは笑顔のまま話を切り替えるように切り出した。
「前にも一度言ったと思うけど、500万円を超えたから、お金でお金を増やす方法も少しずつ始めてもいいころね。」
「お金でお金を増やす?どういうことですか?まさか投資しろっていうんじゃ?」
「そのまさかよ!お金のまま持っていても、何も意味はないからね。
最終的に1億円貯まったとしても、それを年間3%ぐらいの運用益を出さなきゃ意味ないからね。」
雄一は少しびっくりしてしまった。もちろん、株式投資や投資信託などはそれ程敷居が高くないないことも分かってはいたが、得をした、儲かったという話よりも圧倒的に、損をした、もうやらないという話を聞いていたからだ。
「なるほど。分かりますが、大丈夫でしょうか?
この間もニュースで株が暴落したなんて聞きましたし、外貨投資で破産して自殺…なんて話も時々ニュースになってませんか?」
雄一の恐る恐るという言葉とは裏腹に、ユンは楽しそうに笑いながら応えた。
「そうね。確かに投資は難しい部分もあるわ。
でもそれ程難しく考えなくていいの。例えば、大きな意味では定期預金とか、日本の国債も投資なのよ。分かるでしょ?
ただ、定期預金とか国債じゃ、よくっても年利0.5%ぐらいだから、1億円持ってたとしても、1年間でたった50万円にしかならないの。
お金を増やしながら、もちろん損もしないようにしなくちゃいけないわ。」
「証券会社のプロでも損するような投資なのに、僕がそんなに簡単に利益を出せますか?」
「ええ。」
ユンはあっさりと断言した。
「簡単よ。分散すればいいだけ。
プロは限られたお金を使って最大限稼ぐ必要がある。これはとても難しいこと。
ノーベル経済学賞をもらった天才が、スーパーコンピューターやAIを駆使して計算して投資しても、時には損をして大きな会社が潰れることもあるわ。
でも考えてもみて、あなたは、1年でお金を倍にする必要もないし、1ヶ月で100万円利益を出す必要もない。これは大きなアドバンテージなの。」
「と、言いますと?」
雄一はまだあまり理解していなかった。
「例えば、円高になると日本株は下がる事が多いわよね。
難しい経済の原理は置いておくけど、通貨、株、不動産、貴金属、債券の価格は色々とつながっているの。
例えば、円高・株安になって景気が悪いと言われていても、金の価格や債券の価格も下がっているとは限らないわ。」
「はあ…つまり?」
雄一があまりピンときていないので、ユンは少し業を煮やしたように息をついてから話を続けた。
「つまり、あなたの500万円を全て株にすると、株が下がっちゃったら価値も下がっちゃうでしょ。簡単に言うと損をするってことよね。
逆に、その時に金を買っていたら金の価格が上がって儲かってるかもしれない。
でも、さっきも言った通り、何が値上がりして何が値下がりするかは、どんな天才にも、スーパーコンピューターにも分からない。
じゃあ、色々なところに分散して投資すれば、あまり気にしなくてもいいって思わない?
それに、いったん値下がりしても、そのうち値上がりするし、逆に値上がりしても、そのうち値下がりすることもある。
あなたは10年後の事を考えているんだから、今年1年の景気、今年1年の投資結果を極端に気にする必要はないってことよ。」
「そう言われてみればそうかもしれません。」
「た・だ・し、人が儲かるって言う話には飛びつかないこと。そういうのに惑わされると絶対に損するわよ。他の人が儲かった後にあなたが買ったって、あなたは損をするだけになるから。
それにもう一つ、分散投資をするには50万円じゃできない。
50万円じゃ2,3種類の株を買ったらそれでおしまい。
現金、債券、株、現物資産に分散させるには最低でも500万ぐらいは必要だと思うわ。
だからこそ、あなたのお金が500万円以上貯まるまで、この話はしていなかったの。」
「分かりました。少しずつ投資にもお金を回していきます。
大丈夫です。慎重にやりますから。投資で大きく儲けようと色気を出さないように気を付けます。」
「そう。そのぐらい慎重になってくれるなら大丈夫ね。
本当に単純化して言うと、国内株、外国株、債券、不動産(リート)を分散して資産の4/5程度、あとは定期預金などの現金で1/5ぐらいって考えていればいいと思うわ。
もっとも、定期預金じゃほとんど金利はつかないけどね…
それと、急いで買ってしまわないことね。
1,2年かけてゆっくり買っていくぐらいの気持ちでいれば大丈夫だと思うわ。」
「分かりました。少しずつ資産を投資に回していきますね!」
雄一の心は希望に満ちていた。
生活では我慢することも多い。
欲しいなと思うものもたくさんあるが、それは将来の楽しみにとっておこうと思えば苦しいことはなかった。
人生は楽しいものだと思えるようになっていた。
ユンと初めて会った時から3年が過ぎ、仕事でも責任のある立場になってきて、給料も少しばかり上がったものの、1億円を貯めるまではあっという間とはいかないことは理解していた。
それでも雄一は真面目に働き、プライベート、仕事、そしてもちろんお金を貯める事も一生懸命にした。
そして瞬く間に5年間が過ぎ、資産額も2000万円を超えた。
またプライベートでの大きな変化として娘が誕生していた。