5. お金を貯めるという事-必需品を見直す-

これは、年収200万円で、30代で1億円を貯めた実話を元にした小説です。
全8話:
1. 出会い -憧れの生活-
2. 教えられたこと -使うためではなく増やすために貯金する-
3. 貯金開始、お金を増やしていく秘訣
4. お金が貯まる人と貯まらない人の差
5. お金を貯めるという事-必需品を見直す-
6. 節約における勘違い-安物買いは節約にあらず-
7. 支出を減らした後は収入を増やすこと
8. ユンとの別れ-豊かな未来へ向けて-

———————————

5. お金を貯めるという事-必需品を見直す-

小森は穏やかな表情のまま、簡単に自己紹介をした。
今39歳、19歳から資産1億円を目指して貯め始め、18年後の37歳で資産1億円を達成した。

最初の10年間の年収は100万円。

「少しは他の収入源もあった」との含みを持たせてはいたものの、仕事から得る収入は年100万だったことは間違いないと言った。

これで、たった18年で資産1億円を達成したと言うのだ。

「まず、今の雄一君の状況を簡単に教えてください。」

雄一は結婚して約1年であること、自分の月給、家賃、以前まではあまり気にしていなかったが、4ヶ月ほど前から節約と貯金を頑張っている事。

今の貯金額は300万円ちょっとである事。

昼食をケチったり、買い物を我慢したりして月5万円の貯金はできているが、それ以上はどう節約しても貯められない事。

などを簡単に伝えた。

小森は少しだけ厳しい顔になって言った。

「まず、雄一君は”資産”が何かということを分かっていないようなので、そこから話をしましょうか。」

ユンは少し苦い顔をしていた。それを見た雄一も、

『なるほど、これがユンさんが言ってた “小森の少し極端な部分” なのかな。』

と心の中で身構えた。

小森は話を続ける。

「世間一般の言葉の定義としての”資産”ではなく、ここでは厳密にお金をもたらしてくれるもの資産と呼ぶことにします。
例えば、車は資産だと思いますか?車には利用価値はあるし、売ればお金になるから資産だと答える人もいるかもしれません。でも、”1億円貯める方法” の考え方からすると、車は負債でしかない。
使えば使うほどお金がかかるし、使わなくても駐車場代、保険料と維持にお金がかかるからです。」

「こう考えると、同じ不動産でも、人に貸す不動産は資産自宅は負債となることになります。このことは肝に銘じておかなければいけません。
自分の持ち物の中で何が資産で何が負債なのかを明確にしてください。更に、資産でも負債でもないものを “贅沢品” と呼ぶことにします。
ここでの意味も一般的に贅沢な物という意味ではなく、生活用品も含む場合があります。」

小森はテーブルの上にメモ帳を取り出し表を書き始めた。

 必需品必需品ではない物
資産
(お金を生む)
貯金株式・債権
負債
(お金が減る)
家・車課金ゲーム
贅沢品
(あると便利なもの)
光熱費など家具・レジャー

「あくまでも一例ですが…」

「もう少し例をあげておきましょうか。」

と言いながら、小森はメモに簡単に走り書きをしていった。

資産の例:
配当のある株式、投資信託、リート、貸し出し用不動産、国債、貯金など

負債の例:
車、ローン(借金)、スマホ、自宅(賃貸)、保険、家電製品、子供など

贅沢品の例:
服、家具、散髪代金、旅行やレジャー、交際費、本、自分への投資など

「もちろん、必需品、必需品ではない物は人によって違いはあるでしょう。
都市部では車は必需品ではありませんが、郊外では必需品になるかもしれません。それぞれの状況で考えてください。」

資産は分かりますね?持っているだけでお金を生むものです。広い意味では自分自身も資産だと言えますね。自分が働けばお金を得ることができますから。
贅沢品は、服、家具などの生活用品から、オモチャのような趣味性の強いものもあります。
これは、買う必要はありますが、一度買ってしまえば、それ以後はお金を生んだり、持っているだけでお金が減ったりはしないものです。
負債は、持っているだけで維持にお金がかかるものです。
広い意味では子供や養っている家族、ペットも負債に入ります。」

「子供や家族が負債ですか!?」

雄一はギョッとした。ユンも笑顔ではあるものの少し苦い顔をしている。

表情から察するに、ユンは小森の持論に心から賛成しているわけでもなさそうだった。

「そうです。
負債が悪いと言ってるわけではありません。
必要な負債もありますし、便利な負債もあります。
ただ、資産を増やして、負債を減らし、贅沢品を控える
この3つを徹底する必要があるという事だけは覚えておかなくてはなりません。
例えば、自宅の近くに駅やバス停がない場合、車は生活必需品でしょう。ですがなるべく負債を減らすという観点からは、軽自動車にするべきでしょう。
購入時も安く、維持費も安いですからね。これは負債を減らすということになります。
携帯電話も必要でしょう。携帯がなければ仕事も何もできない時代ですからね。でもスマホは本当に必要ですか?
本当に必要だという人はそれ程多くありません。あれば便利だ、友達との連絡に必要という程度で持っているのならば、徹底的に負債を減らし切れていないと言えます。
家族や子供は、もちろんかけがえのないものです。私にも娘がいますし、とても大切にしています。
でも、ことお金に関して言うと、子供は一番大きな負債かもしれませんね。」

「まだ、私には子供はいませんが、確かにお金がかかるという意味では、小森さんの言う通りだと思います。」

小森はここが肝だという様子で続けた。

まだまだ話は終わりそうになかった。

8. ユンとの別れ-豊かな未来へ向けて-

これは、年収200万円で、30代で1億円を貯めた実話を元にした小説です。
全8話:
1. 出会い -憧れの生活-
2. 教えられたこと -使うためではなく増やすために貯金する-
3. 貯金開始、お金を増やしていく秘訣
4. お金が貯まる人と貯まらない人の差
5. お金を貯めるという事-必需品を見直す-
6. 節約における勘違い-安物買いは節約にあらず-
7. 支出を減らした後は収入を増やすこと
8. ユンとの別れ-豊かな未来へ向けて-

———————————

8. ユンとの別れ-豊かな未来へ向けて-

そんな5年の間にも、花を買う機会がある時には必ず、ユンの花屋に顔を出すようにしていた。

「ユンさん。今日も小さなアレンジをお願いします。
食卓に飾る用なので、あまり派手じゃないピンク色のものでお願いします。」

「あら、雄一さん、お久しぶりね。
相変わらず調子はいいみたいね。」

ユンは相変わらず元気そうにしていた。

実のところ、雄一はユンが落ち込んでいるところを見たことがなかった。

雄一は漠然と、元来明るい性格なのかと思っていた。

しかし、最近では生活のゆとりからくる部分もあるだろうなと感じていた。

雄一自身もお金が増えるに従い、心にゆとりができ、何事に関しても前向きになれるように感じていた。

「ええ。おかげさまで。貯金も2000万円を超えました。
目標金額の1億円からするとまだ1/5ですけど、2000万円から得られる不労所得も年間80万円程ありますし、何よりも、段々と将来を楽しみにできるようになりました。
ありがとうございます。」

ユンもご機嫌な様子で鼻歌を歌いながら、ピンク色をベースにした花を次々と選んでアレンジを始めた。

「そうそう、雄一さんには言ってなかったわね。
今月でこの店も閉めちゃうのよ…」

雄一は始め何を言われたのか分からず、聞き流していたが、一瞬ののち、話の内容を理解したとたん驚いた。

「え?ユンさんお店辞めちゃうんですか?なんでまた…」

ユンはまだ上機嫌だ。

雄一はまだ冗談なのか何なのか、話の真意を理解できていなかった。

「うん、シンガポールに行こうと思ってね。」

「シンガポールですか?
なんでまた、今まで何度も旅行されてたと思いますけど…」

「そうね。特にシンガポールが大好きって訳じゃなくて、あ、でもシンガポールに行っても花には携わるつもりよ。
私としては韓国でも日本でもシンガポールでも構わないのよ。
実はね、最近シンガポールで豪華な披露宴の需要が増えているらしくて。
知り合い…雄一さんも知っている人よね、この店にも時々来てくれるあの品のいいご老人よ…
あの人に紹介されて、シンガポールの披露宴サービスをしている会社の人と会ったのよ。
それで意気投合しちゃって、是非来てくれって言われてね。」

雄一が時々感じる、富裕層に共通した感覚だが、生活に不安が無い人は迷わずやりたい事をやる。

普通の人ならば、おそらく、シンガポールにって生活できるだろうか、と不安になるに違いない。

「な、なるほど、じゃあシンガポールで花屋をオープンするんですか?」

「まあそうね。普通の花屋ってわけじゃなくて、アレンジや装飾用になるとは思うけど。」

「それにしても、あのご老人、いったい何者なんです?凄いお知り合いですね。確か英語スクールを創業された方だとは聞いていましたけど。」

ユンは簡単に説明してくれた。

子供向け英語スクールの創業者で、今は国際的な子供支援のNPOに協力している。
なんでも、子ども教育で儲けさせてもらったのだから、歳をとった今は、子どもにできる限りのことをして還元したい。
ということで子供支援を続けているらしい。

「なるほど、やっぱり凄い人だったんですね。
そんな人とお知り合いのユンさんもやっぱりタダ者じゃないって改めて思いました。」

「そうよ。私はともかく、あの人は本当に凄い人。それだけの努力もしてきたしね。
人脈は人生を豊かにしてくれるわ。
雄一さんも、これからももっともっと頑張っていいお友達を沢山見つけてね。
もちろん私もその一人として覚えていてほしいけど。」

「分かりました。
まずは僕自身が価値のある人になって、凄い人と出会えるように…ですよね!」

ユンは既に雄一の事を十分に認めており、また雄一もそれを感じていないわけではなかった。

だがそれでも雄一はまだ、自分がユンやあの上品な老人と対等な人間だとは思えなかったし、一流の人間との人脈を構築していけるとも思っていなかった。

それを察していたユンもまた、雄一ももう対等な付き合いができると、ことあるごとに言っていたのだった。

「そうよ。
… でもそういう意味では私も同じね。もうひと頑張りしないと。
話がそれちゃったけど、シンガポールじゃ家賃も物価も日本よりも高いから、今までみたいにノホホンとはしていられないかもね、フフフ。
一生懸命働かなきゃね。」

「あははは、そうかもしれませんね。
どれぐらいの期間シンガポールにいる予定なんですか?」

「そうね。はっきりとは決めてないけれど、まずは3年間かしら。
ビザの問題は特にないみたい。
ヨーロッパでもそうなんだけど、1億円程あれば、ほぼ無条件で永住権は貰える国もあるみたいよ。
3年の後は、仕事次第ではシンガポールに残るかもしれないし、また別の国に行くかもしれないわね。まあ自分がしたいことを一生懸命しながら生きていくつもりよ。
一度しかない人生なんだし。」

「そうですね!一度しかない人生、僕もそう思います。」

雄一は、本気でそう思えるようになってきている自分を感じていた。

30~40歳と言えば人生の半分近くを生きたことになる。

一度しかない人生だからこそ思いっきり生きたいと思っていたし、かといって家族や周囲に迷惑をかけて好き勝手にしたいわけではなかった。

自分の理想の生き方をするユンが心底うらやましかったが、自分も一歩一歩そこへと進んでいると考えると、うれしくもあった。

 
そこで、ユンは少し話題を変えた。

「あなたも自分の人生、それから娘さんの人生も大切にしてよね。」

ユンは少し神妙な口調になって告げた。

「それから、一つだけ覚えていてちょうだい。」

「実は私は、事故で夫を亡くしているの。
もう20年以上も前のことだけどね。
夫と長男が事故で死んでしまってから、必死で働いて、お金を貯めて、子どもを育てて、大変だったけどね。
だから子どもが独り立ちした後、なんだか精神的に疲れちゃったの。それでもう私も隠居かなって思って、ここで花屋を始めて、静かに暮らしていこうって思ったのよ。
生活費だけで言えば、今は働かなくても生きてはいけるけれど、でも最近、やっぱり生きてる以上は世の中の役に立つことを、みんなが喜んでもらえる事をしたいって思うようになってきたの。
それは実はね、雄一さん、あなたのおかげなのよ。」

心なしか、ユンの目が涙で潤んでいるように感じられた。

それでも普段通りの口調を崩さなかったのは、ユンが過去の事だと心の整理がついているからなのか、それとも平静を装っているだけなのかは雄一には分からなかった。

それでも雄一は、極力和やかな雰囲気になるように、少し素っ頓狂な声を出して応えた。

「ぼ、僕ですか?」

「そう。あなたが一生懸命頑張っている姿を見てたら、私も昔の事を思い出しちゃったのよ。
好きでずっと携わってきた花、この花の仕事で、みんなの人生最高の瞬間の一つである披露宴を華やかにお祝いしてあげたいって思ったのよ。
夫を息子を亡くした私だからこそ、そういう事に強く思い入れがあるのかもしれないわね。
ごめんなさい。暗い話になっちゃったわね。
でもだから、あなたには感謝しているのよ。奥さんと娘さんを大切にしてあげてね。
もちろん今あなたが二人をとても愛してることは知ってるけどね。ウフフ。」

雄一は少しばかり黙っていたが、あえてユンの過去のことには触れずに、未来の話をしようと思った。

「分かりました!こちらこそありがとうございます。ユンさん、僕もお金を貯めて自分のしたい事をしようと思います。
生活費のために働くことももちろん大切だと思いますが、夢や目標の為に働くこともまた大切なことだと思います。
それに、僕も実は海外での仕事や生活に憧れているんです。
シンガポール、いいじゃないですか!最初この店がなくなるって聞いたときはびっくりしましたが、そういうことなら応援しますよ!」

「ありがとう。
あなたも私も、まだまだこれからも頑張らないとね!
あなたにはまだまだ育ちざかりの娘さんもいるし、私以上に頑張らなきゃ!
年間100万ぐらいはお金、増やせてるんでしょ?
その調子で頑張って、シンガポールで、いえ、どこか分からないけれど、どこかでまた会いましょう。」

「いやいや、年間100万円の訳ないでしょう?
2000万円の利息で入ってくる80万円、それとネットの広告収入も含めて250万円ほど、その全部貯めてますよ!」

「うふふ。ごめんなさい。あなたの方が分かってるみたいね。
この調子なら、思っているよりもずっと近い未来にまたどこかで出会えそうね。」

話が終わると同時にユンから手渡されたピンクのフラワーアレンジ。雄一はこの花束には自分への期待も込められているのだと考え、力強く受け取るのだった。