これは、年収200万円で、30代で1億円を貯めた実話を元にした小説です。
全8話:
1. 出会い -憧れの生活-
2. 教えられたこと -使うためではなく増やすために貯金する-
3. 貯金開始、お金を増やしていく秘訣
4. お金が貯まる人と貯まらない人の差
5. お金を貯めるという事-必需品を見直す-
6. 節約における勘違い-安物買いは節約にあらず-
7. 支出を減らした後は収入を増やすこと
8. ユンとの別れ-豊かな未来へ向けて-
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4. お金が貯まる人と貯まらない人の差
瞬く間に2ヶ月が過ぎていった。
雄一は本気で節約をして、本気で貯金をした。したつもりだったのだが、貯金できる金額は殆ど変わらず、相変わらず月5万円程度だった。
その後も何度かユンの花屋に行って話を聞いていたが、できるだけお金を使わないようにしろ、以外のことは教えてもらえなかった。
実際のところ、ユンが意地悪をして貯金の秘訣を教えていないわけではなく、貯金ができる魔法などなく、ただただ地道に貯めていくしかないということだったのだ。
もちろん雄一も頑張っていた。
「お金は増え出したら徐々に増える速度も増すものだから、今は地道に頑張って。」
ユンもそう言って応援し続けてくれた。
ただ、貯金できる額は相変わらず5万円ちょっと。
ボーナスを全額貯金に回しても年間100万円が限界だと思えた。
雄一がヤキモキしながら、仕事帰りにユンの花屋に寄り道をした4度目に、ユンは少し困ったような顔をしながらこう言ってきたのだ。
「雄一君も結構頑張ってるみたいだし、本気で1億円を貯めたいって思ってることはよくわかったわ。
でもあんまりうまくいってないみたいだから、実際に1億円貯めた人の話でも聞いてみる?その人の話は結構参考なると思うわ。」
雄一は正直、救いを求めているような気持になっていたので、この話に飛びついた。
しかし、その表情の変化を見抜いてか、ユンは少し険しい顔つきになって釘を刺してきた。
「でも、あんまり期待しすぎない方がいいかもしれないわよ。1億円を貯めた人は小森君っていうんだけど、小森君はちょっと極端だから…
でも小森君は年収100万円ぐらいしかなかったのに1億円を貯めたのは確かよ…。今、電話してあげるわ。」
「小森さんって、あの以前スイスの話をしていたお爺さんですか?とても優しそうな人だと思いましたが…」
「いいえ、あの人は違うわ。あの人は実業家で、ビジネスに成功したのよ。
80年代に英会話スクールを初めて、公園で子供向けの青空英会話をするところから初めて、今じゃ30ぐらいスクールがあるんじゃないかしら。
でもね、あの人は信じられないぐらいの努力をしたし、ビジネスで成功するには運も実力も必要なのよ。
それにね、ビジネスの成功に一番重要な事は時代に微笑まれること、時代の流れを読む力がとても重要なの。
あなたが今、あの人と同じことをしても、きっとうまくいかないわ。
今になって子供向けの英会話スクールを初めたとしても、きっとあそこまでの成功はできないと思う。
あなたがもし自分のビジネスをしていて、ビジネス成功の秘訣を知りたいのなら、あの人を紹介するんだけれど、あなたはビジネスで成功する方法を知りたいわけじゃないでしょ?」
「そうですね。僕には独立起業は無理だと思います…そういうつもりはありません。ただ今より少し自由な生活をしたいだけで、実業家になりたいわけじゃありません。
それにしても、ユンさんはそんな凄い人とお知り合いなんですね。」
「知り合いって言っても、クルーズ旅行で一緒になっただけだけどね。
でも、仲良くしてもらっているわ。」
雄一は少し納得した。
確かにユンには不思議と人を引き付ける魅力があった。
自分もユンに会いに来る一人だし、雄一のようなごく普通の人や、ビジネスで成功した人、幅広い年齢層の人との気兼ねなく付き合っていけるのはある意味才能なのかもしれない。と雄一は思った。
すぐにユンは携帯電話を取り出して、小森という男に電話を掛けてくた。
雄一は黙って聞いていたが、ユンが “極端な人だから” と言った割には、電話で和やかに話をしているので、雄一は少しだけ安心していた。
「…じゃあ5分ぐらいにね。」
と言ってユンは電話を切った。
「ちょうど近くにいるみたいだから、すぐ来てくれるって。」
「え?今からですか?」
「そうよ。」
「そうですか。それはありがとうございます!」
「ところでユンさんは色々な知り合いや人脈がありますね。俺も色々な人とつながって、有益な人脈を築きたいって思ってるんです。」
と、小森を待っている間に、雄一は今まで疑問に思っていたことをユンに尋ねてみた。
その疑問にユンはあっさりと、しかし衝撃的な答えを返してくれた。
「それは、雄一君自身が人にとって有益な人間になれなきゃ、有益な人脈なんか作れないわ。
色々な人とつながってビジネスをしようみたいな話もよく聞くし、人脈でビジネスがうまくいくという話も嘘ではない。
でも有益な人脈を欲しがっているのは相手も同じでしょ。
あなたが有益な人なら、相手から繋がりたいと思ってくれるものよ。人脈を広げる前に、自分が価値のある人間にならなきゃね。」
ズバリと痛いところを言われた雄一だったが、この話には心から納得できた。
『そうだ、今狭い世界で人脈を築くよりも、ユンさんのように広い世界の色々な人と付き合えるようになって、そこで人脈を広げる方が価値があるのは当然だ…。
俺は順番を間違えていた…』
電話では5分後と言っていたが、実際には3分ぐらいだろうか。
花屋の扉が開かれて、男がお店の中に入ってきた。
顔立ちの整った30代半ばか後半かの男で、品のいい格好をしていた。
その男の勝手知ったる様子から、雄一はすぐにピンときた。
『この人が小森さんか…。』
と同時に少し安心もした。
『なんだ、全然変な人じゃなさそうじゃないか。穏やかそうな人だし。』