貯金が人並みか気になる人へ。比べる相手は、先月の自分でいい

木々と山に囲まれた上り坂の道

「30代で手取り24万、貯金は100万円を切っている。今の日本ってこれが普通なのかな?」

先日、Xでこんな投稿を見かけた。いいねは千を超え、返信欄には「うちも同じ」「自分よりマシ」「いや少なすぎる」と、いろんな声が並んでいた。みんな、自分が「普通」の内側にいるのか外側にいるのかを確かめたいのだと思う。

その気持ちはよく分かる。私も手取りが月10万円台だった頃は、雑誌の「同世代の平均貯蓄額」という記事を見つけるたびに、こっそりページをめくっていた。そして毎回、見なければよかったと思った。

FIREを目指すなら、貯金は大事だ。ただ、最初に気にするべきなのは「人並みかどうか」ではないと、今の私は考えている。

平均と比べると、たいてい落ち込む

数字を一つ紹介しておく。金融経済教育推進機構(J-FLEC)の「家計の金融行動に関する世論調査2025年」の単身世帯調査では、金融資産の保有額は平均で919万円、中央値で130万円だった。ここで言う金融資産には、日常の出し入れに使う預金は含まれない。

平均と中央値で、7倍も違う。一部のたくさん持っている人が平均を引き上げるので、回答した人の8割弱は平均より少ない、と調査自身が説明している。つまり「平均」と比べれば、ほとんどの人が負ける仕組みになっているわけだ。

中央値と比べれば少しは安心できるかもしれない。けれど、それも結局は他人の物差しだ。住んでいる場所も、家賃も、家族も、これから何にお金を使いたいかも、一人ひとり違う。他人の平均より多くても少なくても、自分の暮らしが自由に近づいているかどうかは、その数字からは分からない。

何歳になっても、物差しは自分で持つ。お金のことで私が一番大事にしている考え方の一つだ。

残高ではなく、坂の向きを見る

坂道にボールが置いてある様子を思い浮かべてほしい。

ボールが今、坂の上のほうにあるか下のほうにあるか。それは、今の貯金残高だ。でも、ボールがこれからどちらへ転がるかを決めるのは、置いてある位置ではなく、坂の傾きのほうである。高い場所にあっても下り坂なら、いずれ下まで転がっていく。低い場所にあっても上り坂なら、時間はかかってもじわじわ上がっていく。

家計の「傾き」とは、毎月の収入から支出を引いた残り、つまり毎月どれだけ増えているかだ。貯金100万円の人でも、毎月3万円ずつ増えているなら、坂は上を向いている。貯金500万円の人でも、毎月少しずつ減っているなら、坂は下を向いている。

FIREに近いのはどちらか。少なくとも、今の残高だけで決まる話ではない。

残高より坂の向きを見る:残高が多くても毎月マイナスなら下がり、少なくても毎月プラスなら上がっていく図

手取りが少なかった頃、毎月やっていたこと

若い頃の私は、残高を見るのがつらかった。少ないのは分かっているし、見たところで増えるわけでもない。

そこで、見るものを変えた。給料日の翌日に、小さなノートへ1行だけ書く。「先月より+2万1千円」「先月より−8千円」。書くのは増減の数字だけで、残高は書かない。

マイナスの月は、原因を一つだけ書き添えた。「冠婚葬祭」「自転車の修理」「なんとなくの外食が多い」。反省文にはしない。一つだけ、が続けるコツだった。

半年ほど続けると、ノートの数字に癖があることに気づいた。マイナスの月の原因は、思っていたより「なんとなく」が多い。逆に、冠婚葬祭のような避けられない出費は、年に数回しかない。なんとなくの出費を少し減らすだけで、坂の向きは簡単に変わった。

残高を眺めて落ち込んでいた頃は、何を変えればいいのか全く見えなかった。増減の1行を見るようになってから、やっと手を動かせるようになった気がする。

ペンでノートに書き込む手元

坂が上を向いたら、次は角度を少しずつ

毎月プラスになるようになったら、次は角度を少しずつ上げていく。月1万円の黒字を1万5千円にする。収入を増やしても、支出を減らしても、残るお金が増えるという意味では同じことだ。

そして、残ったお金を「いつか使うための貯金」で終わらせない。私は貯金を、使うためではなく増やすためのものだと考えてきた。坂を上がってきたお金の一部を、長く持てる形で分散して働かせておけば、ボールは自分の力だけでなく、坂そのものが少しずつ持ち上げてくれるようになる。何に、どれだけ回すかは、収入や家族、性格によって違うので、自分で調べて決めてほしい。

30代で貯金100万円未満でも、坂が上を向いていれば、FIREの準備はもう始まっている。逆に、どれだけ残高があっても、坂が下を向いたままなら準備はまだ始まっていない。そんなん、残高だけ見てたら分からへんやん、という話である。

「普通かどうか」を確かめたくなったら、他人の平均ではなく、ノートの先月の1行を見ればいい。

あなたのボールは、今月どちらへ転がっただろうか。