3. 貯金開始、お金を増やしていく秘訣

これは、年収200万円で、30代で1億円を貯めた実話を元にした小説です。
全8話:
1. 出会い -憧れの生活-
2. 教えられたこと -使うためではなく増やすために貯金する-
3. 貯金開始、お金を増やしていく秘訣
4. お金が貯まる人と貯まらない人の差
5. お金を貯めるという事-必需品を見直す-
6. 節約における勘違い-安物買いは節約にあらず-
7. 支出を減らした後は収入を増やすこと
8. ユンとの別れ-豊かな未来へ向けて-

———————————

3. 貯金開始、お金を増やしていく秘訣

次の日から雄一はさっそく節約を始めた。
昼食が外食の時は安いものを選んだり、仕事帰りによく行っていた居酒屋の回数も半分程度に減らしたりした。

 
欲しかったビジネスバッグがあったのだが、今のカバンも古くなっているわけではなかったので諦めることにした。
更には電気をこまめに消したり、水道の使用も意識して少なくしてみたりした。

節約を心がけるようになってからすぐに、財布の中のお金の減りが遅くなったと思えるようになった。

雄一も内心『これならしっかり貯金できそうだ』と思っていた。

2か月ほどしてから、雄一は収入と生活費をざっと計算し、このペースで節約していけばそれ程無理をしなくても月5万円ずつなら貯金ができそうだなと思った。と同時に、今までこれ程必要なものにお金を使っていたのかと、過去の自分を恥ずかしくも思った。

生活費と貯金可能額を簡単に計算した紙を見ながらニヤニヤしていると、雄一はふとした思いがよぎった。

『月5万円のペースで貯金していくと、いつ1億円貯まるのかな?』

5万円 x 12ヶ月 = 60万円、まあ年末年始は出費も多いし貯金できないかもしれないから、年50万円かな?

1億円貯まるのにどれぐらいだろうか?雄一は、紙に1億円を1年50万円ペースで貯めるとどうなるのかを計算してみた。

100,000,000 ÷ 500,000 = …..200!!?200年だって!?

こんなに必死に節約して、全部貯金して、200年続けなきゃいけないのか!
1億円なんて貯められるわけがないじゃないか!

次の日、仕事を片づけると真っ先に帰りの電車に飛び乗った。
雄一は怒りにも似た気分だった。いや、冷静になると怒るのはお門違いだし、節約することが悪い事ではないのは分かっていた。
それでも、行きたい時にいつでも自由に海外旅行をできる生活を実現できる気になってしまっていた雄一は、1億円貯まるのが200年後だということで裏切られたような気分になっていたのだ。

「ユンさん!」

花屋はオープンしていたので、お店の扉を開けると同時に雄一はユンを呼んでいた。

「あら、いらっしゃい。お久しぶりね。」

挨拶もせず、雄一は続けた。

「この2ヶ月、一生懸命節約して貯金して、今の給料でも1ヶ月で月5万円ぐらいは貯められるようになりました。でも、計算してみたら、年50万円ずつ貯金してたら1億円貯まるまでに200年もかかるじゃないですか!年間100万円貯めたとしたって100年後ですよ。ばからしい。俺の事からかってたんですね?」

雄一は一息でここまで喋り切った。雄一としては、ズバリ言ってやったと思っていたが、ユンはまるでそんな言葉を予想していたかのようにニコニコしながら雄一の言葉を聞き終わって、それから、落ち着いたまま応えた。

「まあ落ち着きなさい。言ったでしょ、”お金を増やすためにお金を貯める“んだって。」

「え、それはどういう意味ですか?」

雄一はそれでも少し不機嫌そうに尋ね返した。

「じゃあ少し詳しく教えてあげるわね。こっちへ来てちょうだい。」

ユンは、カウンターの上に載せていたタブレットを手に取って、表計算ソフトを立ち上げた。

「いい?とりあえず、簡単に計算するために、元々500万円貯金があって、
そこに年100万ずつ貯めたとするわね。そのまま貯金していくと

1億円まであと9500万円
 9500万 ÷ 100 = 95 だから、
95年かかっちゃうわよね。でも、利息を5%で考えたら…」

ユンは表に1.05と入力して下にザーッと引っ張ると数字がみるみる増えていった。

「ね、これで大体30年で1億円よ。

ただ貯金をするよりも3倍も早く貯まるの。」

「なるほど…
でもちょっと待ってください、銀行に預けたって雀の涙ほども金利付かないですよ。
5%の利息で増やすなんて…」

「確かに10万円しかお金がない時に5%ずつ増やすのは無理ね。
でも例えば1000万円ぐらいあれば、それほど難しいわけではないわ。
外貨預金、株、債券、不動産、色々と分散して5%ぐらいなら十分運用は可能なの。
それからその運用利益のお金もまた再投資に回していくの。そうすれば、100万円ずつしか貯金できなくても20年で1億円になるってわけ。」

「…でも俺の知り合いにも何人かいますが、外貨預金は損したって人ばかりですよ。」

「儲かるって聞いてから始める人は損するかもしれないわね。
重要なのは分散投資ということよ。まあ投資の話はまた今度にするとして、あなたの場合、まずはお金を貯めなきゃね。それにね…」

ユンは少しだけいたずらっぽく声のトーンを下げて、ナイショ話をするように続けた。

「あなた、以前に、老後に2000万円あれば豊かに暮らせるって言ってたけど、2000万円だったら、その2000万円を少しずつ使っていくことになるわよね。」

「そりゃあ、そうでしょう。」

と言いかけた雄一の言葉を抑え込むようにユンは続けた。

「1億円ぐらいになれば、その1億円を使わなくても豊かに暮らせるようになるのよ。
例えば1億円を年間5%で運用したとすると、何もしなくても500万円ずつ増えていく。
その500万円だけを使えば、つまり月40万円ずつぐらいを使っていけば、1億円を切り崩すことなく、ずっと豊かに暮らしていけるってわけよ。
月40万円使うことができれば、とりあえず、生活には困らないでしょ。
だから資産1億円以上持っている人を“富裕層”って呼ぶのよ。
富裕層の人は、一切お金を減らすことなく豊かに生きていくことができるの。」

「な、なるほど。まるで魔法みたいな話ですね。」

ユンはようやくナイショ話を止めて、普通の声で話を続けた。

「でもさっきも言ったように、10万円や100万円しかないなら5%で安全に運用することは難しいから、あなたの場合はまず貯めるところからね。」

雄一は少し落ち着いて、頭の中で整理してみた。

まずは、頑張って1000万円貯めて、5%で安全に運用する、1000万円の5%だと年間50万円か…それをさらに運用に回して…

「でも結構大変ですよね。1000万円貯めるまでは5%で運用できないのなら、最初は毎年100万円ずつ貯金をしたって1000万円貯まるまでに10年かかるってことになりますし。」

「その通りね。1億円を貯めることができない人は、まさにそこにハマっているわけよ。
200万円貯めて車を買って、
1000万円貯まったら家を買う頭金にして、こんな感じでしょ。
それじゃ、運用に回せるお金はいつまでたっても0のまま。
だからこそ、できるだけ早く貯め始める事が重要なのよ。
2000万円ぐらい貯まったら、5%で年間100万円。何もしなくても月8万円ずつもらえるのと同じでしょ。
そこまでいけば、それ程無理しなくても、あとは勝手にお金は増えていくわ。
ところであなたは今いくら持ってるの?」

「300万円ぐらいです…」

1000万2000万という数字が出てくるのに、自分が300万円しか持っていないことに、雄一は少し恥ずかしい気持ちだった。
しかし、ユンは300万円という貯金額を聞いて、むしろ少し楽観的になったようだった。

「もう少し欲しいところね。500万円ぐらいになったら、また話の続き聞かせてあげるわ。さっきも言った、投資の話をね。
でも今は何も考えずに貯める事だけ考えて。変な儲け話に手を出しちゃったら、きっと損するだけよ。」

「わかりました。頑張って貯めてみます。もっともっと節約して、少ないですがボーナスも全額貯めるようにします。
それでなんとか1年で100万円ぐらいは貯められると思います。」

雄一は落ち着きを取り戻して、また自由な生活への夢を取り戻した。200年後と思っていたものが、20年後と言われれば、気持ちも楽になった。
20年後ならまだ雄一は40代後半、50歳からの夢の生活を思い浮かべると、来た時よりも数段軽やかな足取りになった。

雄一はそのままユンに挨拶をして店を出ようとした時に、ハッとして振り返り、またカウンターのところまで戻ってこう言った。

「すみません。前来た時も何も買わずに帰ってしまって。えーっと…」

ぐるっと見回して、カウンターの横に置いてあったバラが3本立ててあったので、それを指さした。

「このバラ3本ください。アレンジにはしなくても大丈夫です。」

ユンは一瞬キョトンとしたが、すぐに本当に楽しそうに笑いだした。

「あはははは。あなたそんなこと気にしてたのね。あははは。ありがとう。
でも気を遣わなくっても大丈夫よ。ついさっき、もっと節約するって決めたとこじゃないの。
それにこのバラは今日予約が入っちゃってて売ることはできないの。」

「そ、そうですか…じゃあ、何か悪いですけど、お言葉に甘えまして…」

「いいのよ。本当に気にしないで。またお喋りしに来てくださいね。」

雄一はその日もまた、何も買わずに店を後にした。

翌日の朝、少し遠回りしてオープン前の店の前を通って中を覗いてみたら、まだバラは刺さったままだった。

「ユンさん、バラに予約が入ってるなんて嘘ついて…本気で節約しろってことですね!よし、本気になってやってやるぞ!」

通勤のサラリーマンが押し寄せる改札口めがけて、雄一は心なしか大きな一歩を踏み出した。

7. 支出を減らした後は収入を増やすこと

これは、年収200万円で、30代で1億円を貯めた実話を元にした小説です。
全8話:
1. 出会い -憧れの生活-
2. 教えられたこと -使うためではなく増やすために貯金する-
3. 貯金開始、お金を増やしていく秘訣
4. お金が貯まる人と貯まらない人の差
5. お金を貯めるという事-必需品を見直す-
6. 節約における勘違い-安物買いは節約にあらず-
7. 支出を減らした後は収入を増やすこと
8. ユンとの別れ-豊かな未来へ向けて-

———————————

7. 支出を減らした後は収入を増やすこと

徹底的に全ての支出をゼロから見直し、不必要なもの、本当に究極的に必要なもの以外は全て削った。

ただ、月収が20万円ちょっとの雄一には、仮に支出を極限まで減らしたとしても、小森のように学生時代から少しずつ初めていたわけではなかったので、どうしてもある程度の金額が貯まるには時間がかかってしまう。

そこで、小森に教えてもらったように、映画のレビューブログにネット広告を入れ、広告収入を得るようにした。

色々と試行錯誤をしながら記事を書いていくと、徐々に訪問者も増え、約1年後にはブログからの広告収入で月5万円程度を稼げるようになっていた。

もちろん、雄一はこの5万円と、給料からの10万円を全て貯蓄に回し、約1年後には、貯金額は500万円を超えていた。

 
「おめでとう!頑張ったわね!」

「ありがとうございます。」

あれから2,3ヶ月に1度は顔を出していたが、ついにこの報告をできる時がきた。

雄一としては、まだまだ達成感を感じるというような気分ではなかったのだが、ここまで手放しで褒められると悪い気はしなかった。

「苦しい時もありますけれども、段々と楽しくなってきました。少しだけ心にゆとりができてきましたよ。」

「ええ。凄いわ。正直、あなたに初めてこの話をした時は、ここまで頑張れるとは思ってなかったから。」

「ユンさん、酷いですね。」

少し意地悪そうに言われたので、雄一も少しふざけてふてくされたようなそぶりをした。

「本当よ。今まで今話をした人は他にもいたけれど、みんな我慢できずにお金を使っちゃうのよ。」

「僕も旅行に行きたくなることはあります。仕事で休みがもらえた時なんかは特にそう思います。
でも、10年先の本当に何の気兼ねもなく自由に旅行に行ける時を想像して、今は我慢してます。」

「偉いわね。…..さて。」

ユンは笑顔のまま話を切り替えるように切り出した。

「前にも一度言ったと思うけど、500万円を超えたから、お金でお金を増やす方法も少しずつ始めてもいいころね。」

「お金でお金を増やす?どういうことですか?まさか投資しろっていうんじゃ?」

「そのまさかよ!お金のまま持っていても、何も意味はないからね。
最終的に1億円貯まったとしても、それを年間3%ぐらいの運用益を出さなきゃ意味ないからね。」

雄一は少しびっくりしてしまった。もちろん、株式投資や投資信託などはそれ程敷居が高くないないことも分かってはいたが、得をした、儲かったという話よりも圧倒的に、損をした、もうやらないという話を聞いていたからだ。

「なるほど。分かりますが、大丈夫でしょうか?
この間もニュースで株が暴落したなんて聞きましたし、外貨投資で破産して自殺…なんて話も時々ニュースになってませんか?」

雄一の恐る恐るという言葉とは裏腹に、ユンは楽しそうに笑いながら応えた。

「そうね。確かに投資は難しい部分もあるわ。
でもそれ程難しく考えなくていいの。例えば、大きな意味では定期預金とか、日本の国債も投資なのよ。分かるでしょ?
ただ、定期預金とか国債じゃ、よくっても年利0.5%ぐらいだから、1億円持ってたとしても、1年間でたった50万円にしかならないの。
お金を増やしながら、もちろん損もしないようにしなくちゃいけないわ。」

「証券会社のプロでも損するような投資なのに、僕がそんなに簡単に利益を出せますか?」

「ええ。」

ユンはあっさりと断言した。

「簡単よ。分散すればいいだけ。
プロは限られたお金を使って最大限稼ぐ必要がある。これはとても難しいこと。
ノーベル経済学賞をもらった天才が、スーパーコンピューターやAIを駆使して計算して投資しても、時には損をして大きな会社が潰れることもあるわ。
でも考えてもみて、あなたは、1年でお金を倍にする必要もないし、1ヶ月で100万円利益を出す必要もない。これは大きなアドバンテージなの。」

「と、言いますと?」
雄一はまだあまり理解していなかった。

「例えば、円高になると日本株は下がる事が多いわよね。
難しい経済の原理は置いておくけど、通貨、株、不動産、貴金属、債券の価格は色々とつながっているの。
例えば、円高・株安になって景気が悪いと言われていても、金の価格や債券の価格も下がっているとは限らないわ。」

「はあ…つまり?」

雄一があまりピンときていないので、ユンは少し業を煮やしたように息をついてから話を続けた。

「つまり、あなたの500万円を全て株にすると、株が下がっちゃったら価値も下がっちゃうでしょ。簡単に言うと損をするってことよね。
逆に、その時に金を買っていたら金の価格が上がって儲かってるかもしれない。
でも、さっきも言った通り、何が値上がりして何が値下がりするかは、どんな天才にも、スーパーコンピューターにも分からない。
じゃあ、色々なところに分散して投資すれば、あまり気にしなくてもいいって思わない?
それに、いったん値下がりしても、そのうち値上がりするし、逆に値上がりしても、そのうち値下がりすることもある。
あなたは10年後の事を考えているんだから、今年1年の景気、今年1年の投資結果を極端に気にする必要はないってことよ。」

「そう言われてみればそうかもしれません。」

「た・だ・し、人が儲かるって言う話には飛びつかないこと。そういうのに惑わされると絶対に損するわよ。他の人が儲かった後にあなたが買ったって、あなたは損をするだけになるから。
それにもう一つ、分散投資をするには50万円じゃできない
50万円じゃ2,3種類の株を買ったらそれでおしまい。
現金、債券、株、現物資産に分散させるには最低でも500万ぐらいは必要だと思うわ。
だからこそ、あなたのお金が500万円以上貯まるまで、この話はしていなかったの。」

「分かりました。少しずつ投資にもお金を回していきます。
大丈夫です。慎重にやりますから。投資で大きく儲けようと色気を出さないように気を付けます。」

「そう。そのぐらい慎重になってくれるなら大丈夫ね。
本当に単純化して言うと、国内株、外国株、債券、不動産(リート)を分散して資産の4/5程度、あとは定期預金などの現金で1/5ぐらいって考えていればいいと思うわ。
もっとも、定期預金じゃほとんど金利はつかないけどね…
それと、急いで買ってしまわないことね。
1,2年かけてゆっくり買っていくぐらいの気持ちでいれば大丈夫だと思うわ。」

「分かりました。少しずつ資産を投資に回していきますね!」

雄一の心は希望に満ちていた。
生活では我慢することも多い。
欲しいなと思うものもたくさんあるが、それは将来の楽しみにとっておこうと思えば苦しいことはなかった。
人生は楽しいものだと思えるようになっていた。

ユンと初めて会った時から3年が過ぎ、仕事でも責任のある立場になってきて、給料も少しばかり上がったものの、1億円を貯めるまではあっという間とはいかないことは理解していた。

それでも雄一は真面目に働き、プライベート、仕事、そしてもちろんお金を貯める事も一生懸命にした。

そして瞬く間に5年間が過ぎ、資産額も2000万円を超えた。

またプライベートでの大きな変化として娘が誕生していた。