投資より先に「生活防衛資金」。資産3億円になっても現金を手放さない理由

青い貯金箱とコインの入った小さな金庫

FIREを目指す人から「早く投資を始めたいんですけど、何から買えばいいですか?」と聞かれることがある。気持ちはよく分かる。でも僕がいつも最初に返すのは、銘柄の話ではなく「生活費の何か月分、すぐ使える現金を持ってる?」という質問だ。

年収200万円台の会社員だった頃、僕は一度だけ「現金が足りない」怖さを味わったことがある。会社の業績が傾いてボーナスがほぼゼロになり、同じ年に実家の用事で急な出費が重なった。当時の僕は、貯めたお金のほとんどを投資に回していた。しかもタイミング悪く相場は下がっていて、売れば損が確定する状態。結局、泣く泣く一部を売って穴埋めした。

あのとき痛感したのは、「投資でお金を増やすには、投資したお金に手を付けなくて済む状態を先に作らなあかん」ということだ。その土台が、今日のテーマの「生活防衛資金」である。

生活防衛資金は「投資を続けるための保険」

生活防衛資金とは、収入が途絶えたり大きな出費があったりしたときに、生活を守るための現金のことだ。病気やケガ、失業、転職のすき間、家電や車の故障、冠婚葬祭。人生には「来ると分かっているけど、いつ来るか分からない出費」が必ずある。

僕はこれを、投資を続けるための保険だと考えている。分散・長期の投資で一番大事なのは、途中でやめないことだ。ところが現金のクッションがないと、相場が悪いときに限って生活のために売る羽目になる。下がったところで売り、上がったときには手元に何もない。これでは、穴の開いたコップに一生懸命水を注いでいるようなものだ。

逆に言えば、生活防衛資金があるだけで、暴落のニュースを見ても「まあ生活には関係ないし」と放っておける。この「放っておける」という状態こそが、長期投資の一番の武器だと僕は思っている。

何か月分あればいいのか

よく「生活費の3か月〜1年分」と言われる。幅が広すぎて「どっちやねん」とツッコみたくなるが、これは人によって必要な額が違うからだ。僕の目安はこうだ。

  • 会社員で収入が安定している独身:生活費の3〜6か月分
  • 家族がいる、または片働き:6か月〜1年分
  • 自営業・フリーランス・収入の波が大きい人:1年分以上
  • 転職や退職を考えている人:次の収入が入るまでの期間+数か月分

ここで大事なのは「生活費」を正しく知ることだ。参考までに、総務省統計局の家計調査によると、2025年平均の二人以上の世帯の消費支出は1か月あたり314,001円で、前年より名目で4.6%増えている。物価が上がれば必要な生活費も上がる。数年前に決めた生活防衛資金の額が、今の暮らしには足りなくなっていることもあるので、ときどき見直したい。

ただし、平均はあくまで平均だ。僕は家計簿をつけて、自分の家の「本当に必要な生活費」を出してから計算することをすすめる。支出を見直して固定費が下がれば、必要な生活防衛資金も小さくなる。節約の効果は二重に効くわけだ。

生活防衛資金の目安と置き場所のポイント

どこに置いておくか

生活防衛資金は「増やすお金」ではなく「守るお金」だ。なので、置き場所の条件はシンプルである。

  • すぐ引き出せること(必要なときに数日待たされない)
  • 元本が減らないこと(株や投資信託には入れない)
  • 普段使いの口座と分けること(いつの間にか使ってしまわないように)

僕は給料が入る口座とは別の銀行に、生活防衛資金専用の普通預金を作っている。財布と金庫を分けるイメージだ。普段は存在を忘れているくらいでちょうどいい。

金額が大きくなってきたら、預金保険制度も頭に入れておきたい。金融庁の説明では、利息のつく普通預金や定期預金などの一般預金等は、1つの金融機関ごとに預金者1人あたり元本1,000万円までとその利息等が保護される。無利息など一定の条件を満たす決済用預金は全額保護の対象だ。上限を超えそうなら、金融機関を分けておくと安心できる。

資産3億円でも、現金は「ムダ」ではない

「インフレの時代に現金を寝かせておくのはもったいない」という意見もある。たしかに、物価が上がれば現金の価値は目減りする。僕も現金を必要以上に持つことはすすめない。資産の大部分は、分散して長く持つ投資に回している。

それでも、資産が3億円になった今も、僕は生活費の1年分以上を現金で持っている。理由は単純で、現金は「安心」と「選択肢」を買うためのコストだと思っているからだ。

現金があれば、相場が大きく下がったときに慌てて売らずに済む。家族が病気になったときに、お金の心配より看病を優先できる。会社で理不尽なことがあったときに「辞めても何とかなる」と思える。オヤジ論になってしまうが、この心の余裕があるかないかで、人生の判断の質はずいぶん変わる。

FIREとは、結局のところ「お金のために嫌な選択をしなくていい状態」のことだと僕は思っている。だとすれば、生活防衛資金はFIREの小さな第一歩だ。1か月分でも貯まれば、1か月分だけ自由になれる。

白い貯金箱と財布、紙幣とコイン

まとめ:投資は「守り」ができてから

  • 生活防衛資金は、収入減や急な出費から生活を守り、投資を途中でやめないための土台。
  • 目安は生活費の3か月〜1年分以上。働き方や家族構成で決める。まずは自分の家の生活費を知ることから。
  • 置き場所は、すぐ引き出せて元本が減らない預金。普段使いの口座とは分ける。
  • 物価が上がれば必要額も変わるので、ときどき見直す。

僕が年収200万円台からここまで来られたのは、何か特別な投資をしたからではない。支出を見直し、守りを固め、あとは分散して長く持つ。これを地味に続けただけだ。どの商品にどれだけ投資するかは、最後は自分で考えて決めてほしい。ただ、その前にまず「守り」を作る。始めるのは今日からでいい。

3. 貯金開始、お金を増やしていく秘訣

これは、年収200万円で、30代で1億円を貯めた実話を元にした小説です。
全8話:
1. 出会い -憧れの生活-
2. 教えられたこと -使うためではなく増やすために貯金する-
3. 貯金開始、お金を増やしていく秘訣
4. お金が貯まる人と貯まらない人の差
5. お金を貯めるという事-必需品を見直す-
6. 節約における勘違い-安物買いは節約にあらず-
7. 支出を減らした後は収入を増やすこと
8. ユンとの別れ-豊かな未来へ向けて-

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3. 貯金開始、お金を増やしていく秘訣

次の日から雄一はさっそく節約を始めた。
昼食が外食の時は安いものを選んだり、仕事帰りによく行っていた居酒屋の回数も半分程度に減らしたりした。

 
欲しかったビジネスバッグがあったのだが、今のカバンも古くなっているわけではなかったので諦めることにした。
更には電気をこまめに消したり、水道の使用も意識して少なくしてみたりした。

節約を心がけるようになってからすぐに、財布の中のお金の減りが遅くなったと思えるようになった。

雄一も内心『これならしっかり貯金できそうだ』と思っていた。

2か月ほどしてから、雄一は収入と生活費をざっと計算し、このペースで節約していけばそれ程無理をしなくても月5万円ずつなら貯金ができそうだなと思った。と同時に、今までこれ程必要なものにお金を使っていたのかと、過去の自分を恥ずかしくも思った。

生活費と貯金可能額を簡単に計算した紙を見ながらニヤニヤしていると、雄一はふとした思いがよぎった。

『月5万円のペースで貯金していくと、いつ1億円貯まるのかな?』

5万円 x 12ヶ月 = 60万円、まあ年末年始は出費も多いし貯金できないかもしれないから、年50万円かな?

1億円貯まるのにどれぐらいだろうか?雄一は、紙に1億円を1年50万円ペースで貯めるとどうなるのかを計算してみた。

100,000,000 ÷ 500,000 = …..200!!?200年だって!?

こんなに必死に節約して、全部貯金して、200年続けなきゃいけないのか!
1億円なんて貯められるわけがないじゃないか!

次の日、仕事を片づけると真っ先に帰りの電車に飛び乗った。
雄一は怒りにも似た気分だった。いや、冷静になると怒るのはお門違いだし、節約することが悪い事ではないのは分かっていた。
それでも、行きたい時にいつでも自由に海外旅行をできる生活を実現できる気になってしまっていた雄一は、1億円貯まるのが200年後だということで裏切られたような気分になっていたのだ。

「ユンさん!」

花屋はオープンしていたので、お店の扉を開けると同時に雄一はユンを呼んでいた。

「あら、いらっしゃい。お久しぶりね。」

挨拶もせず、雄一は続けた。

「この2ヶ月、一生懸命節約して貯金して、今の給料でも1ヶ月で月5万円ぐらいは貯められるようになりました。でも、計算してみたら、年50万円ずつ貯金してたら1億円貯まるまでに200年もかかるじゃないですか!年間100万円貯めたとしたって100年後ですよ。ばからしい。俺の事からかってたんですね?」

雄一は一息でここまで喋り切った。雄一としては、ズバリ言ってやったと思っていたが、ユンはまるでそんな言葉を予想していたかのようにニコニコしながら雄一の言葉を聞き終わって、それから、落ち着いたまま応えた。

「まあ落ち着きなさい。言ったでしょ、”お金を増やすためにお金を貯める“んだって。」

「え、それはどういう意味ですか?」

雄一はそれでも少し不機嫌そうに尋ね返した。

「じゃあ少し詳しく教えてあげるわね。こっちへ来てちょうだい。」

ユンは、カウンターの上に載せていたタブレットを手に取って、表計算ソフトを立ち上げた。

「いい?とりあえず、簡単に計算するために、元々500万円貯金があって、
そこに年100万ずつ貯めたとするわね。そのまま貯金していくと

1億円まであと9500万円
 9500万 ÷ 100 = 95 だから、
95年かかっちゃうわよね。でも、利息を5%で考えたら…」

ユンは表に1.05と入力して下にザーッと引っ張ると数字がみるみる増えていった。

「ね、これで大体30年で1億円よ。

ただ貯金をするよりも3倍も早く貯まるの。」

「なるほど…
でもちょっと待ってください、銀行に預けたって雀の涙ほども金利付かないですよ。
5%の利息で増やすなんて…」

「確かに10万円しかお金がない時に5%ずつ増やすのは無理ね。
でも例えば1000万円ぐらいあれば、それほど難しいわけではないわ。
外貨預金、株、債券、不動産、色々と分散して5%ぐらいなら十分運用は可能なの。
それからその運用利益のお金もまた再投資に回していくの。そうすれば、100万円ずつしか貯金できなくても20年で1億円になるってわけ。」

「…でも俺の知り合いにも何人かいますが、外貨預金は損したって人ばかりですよ。」

「儲かるって聞いてから始める人は損するかもしれないわね。
重要なのは分散投資ということよ。まあ投資の話はまた今度にするとして、あなたの場合、まずはお金を貯めなきゃね。それにね…」

ユンは少しだけいたずらっぽく声のトーンを下げて、ナイショ話をするように続けた。

「あなた、以前に、老後に2000万円あれば豊かに暮らせるって言ってたけど、2000万円だったら、その2000万円を少しずつ使っていくことになるわよね。」

「そりゃあ、そうでしょう。」

と言いかけた雄一の言葉を抑え込むようにユンは続けた。

「1億円ぐらいになれば、その1億円を使わなくても豊かに暮らせるようになるのよ。
例えば1億円を年間5%で運用したとすると、何もしなくても500万円ずつ増えていく。
その500万円だけを使えば、つまり月40万円ずつぐらいを使っていけば、1億円を切り崩すことなく、ずっと豊かに暮らしていけるってわけよ。
月40万円使うことができれば、とりあえず、生活には困らないでしょ。
だから資産1億円以上持っている人を“富裕層”って呼ぶのよ。
富裕層の人は、一切お金を減らすことなく豊かに生きていくことができるの。」

「な、なるほど。まるで魔法みたいな話ですね。」

ユンはようやくナイショ話を止めて、普通の声で話を続けた。

「でもさっきも言ったように、10万円や100万円しかないなら5%で安全に運用することは難しいから、あなたの場合はまず貯めるところからね。」

雄一は少し落ち着いて、頭の中で整理してみた。

まずは、頑張って1000万円貯めて、5%で安全に運用する、1000万円の5%だと年間50万円か…それをさらに運用に回して…

「でも結構大変ですよね。1000万円貯めるまでは5%で運用できないのなら、最初は毎年100万円ずつ貯金をしたって1000万円貯まるまでに10年かかるってことになりますし。」

「その通りね。1億円を貯めることができない人は、まさにそこにハマっているわけよ。
200万円貯めて車を買って、
1000万円貯まったら家を買う頭金にして、こんな感じでしょ。
それじゃ、運用に回せるお金はいつまでたっても0のまま。
だからこそ、できるだけ早く貯め始める事が重要なのよ。
2000万円ぐらい貯まったら、5%で年間100万円。何もしなくても月8万円ずつもらえるのと同じでしょ。
そこまでいけば、それ程無理しなくても、あとは勝手にお金は増えていくわ。
ところであなたは今いくら持ってるの?」

「300万円ぐらいです…」

1000万2000万という数字が出てくるのに、自分が300万円しか持っていないことに、雄一は少し恥ずかしい気持ちだった。
しかし、ユンは300万円という貯金額を聞いて、むしろ少し楽観的になったようだった。

「もう少し欲しいところね。500万円ぐらいになったら、また話の続き聞かせてあげるわ。さっきも言った、投資の話をね。
でも今は何も考えずに貯める事だけ考えて。変な儲け話に手を出しちゃったら、きっと損するだけよ。」

「わかりました。頑張って貯めてみます。もっともっと節約して、少ないですがボーナスも全額貯めるようにします。
それでなんとか1年で100万円ぐらいは貯められると思います。」

雄一は落ち着きを取り戻して、また自由な生活への夢を取り戻した。200年後と思っていたものが、20年後と言われれば、気持ちも楽になった。
20年後ならまだ雄一は40代後半、50歳からの夢の生活を思い浮かべると、来た時よりも数段軽やかな足取りになった。

雄一はそのままユンに挨拶をして店を出ようとした時に、ハッとして振り返り、またカウンターのところまで戻ってこう言った。

「すみません。前来た時も何も買わずに帰ってしまって。えーっと…」

ぐるっと見回して、カウンターの横に置いてあったバラが3本立ててあったので、それを指さした。

「このバラ3本ください。アレンジにはしなくても大丈夫です。」

ユンは一瞬キョトンとしたが、すぐに本当に楽しそうに笑いだした。

「あはははは。あなたそんなこと気にしてたのね。あははは。ありがとう。
でも気を遣わなくっても大丈夫よ。ついさっき、もっと節約するって決めたとこじゃないの。
それにこのバラは今日予約が入っちゃってて売ることはできないの。」

「そ、そうですか…じゃあ、何か悪いですけど、お言葉に甘えまして…」

「いいのよ。本当に気にしないで。またお喋りしに来てくださいね。」

雄一はその日もまた、何も買わずに店を後にした。

翌日の朝、少し遠回りしてオープン前の店の前を通って中を覗いてみたら、まだバラは刺さったままだった。

「ユンさん、バラに予約が入ってるなんて嘘ついて…本気で節約しろってことですね!よし、本気になってやってやるぞ!」

通勤のサラリーマンが押し寄せる改札口めがけて、雄一は心なしか大きな一歩を踏み出した。