給料が上がっても貯まらないのはなぜ?資産3億円の私が「生活レベル」を上げなかった理由

たくさんの買い物袋を持つ女性

給料が上がった月、何に使っただろうか。

若い頃の私は、年収200万円台の普通の会社員だった。数年に一度、ほんの少しだけ昇給があった。月に数千円、良くて1万円ちょっと。それでも給与明細を見たときは素直にうれしかった。

ところが、同じ職場で同じように昇給した同僚の何人かは、なぜか昇給前より「お金がない」と言っていた。昇給をきっかけに家賃の高い部屋に引っ越したり、車をワンランク上に買い替えたり、スマホの料金プランを一番いいものにしたり。上がった給料以上に、出ていくお金が増えていたのだ。

これを「ライフスタイルインフレ」と呼ぶ。収入が増えると、それに合わせて生活レベルも自然と上がってしまう現象のことだ。私は今、個人資産が約3億円あるが、ここまで来られた理由をひとつ挙げろと言われたら、才能でも運でもなく「給料が上がっても生活レベルをほとんど上げなかったこと」だと答える。

昇給しても貯まらない人は「穴の開いたバケツ」を大きくしている

お金が貯まらない状態は、よく穴の開いたバケツに例えられる。上から水(収入)を注いでも、底の穴(支出)から漏れていく。

ライフスタイルインフレが厄介なのは、収入が増えると同時に、穴まで一緒に大きくなることだ。注ぐ水が増えたのに、漏れる量も同じだけ増える。結果、バケツに残る水はいつまでも変わらない。昇給前も昇給後も「月末にはほぼゼロ」。そんなん、昇給した意味ないやん。

しかも一度上げた生活レベルは、なかなか下げられない。広い部屋、いい車、毎月のサブスク。人間は「手に入れたものを手放す」ことに強い痛みを感じる。だから、上げるのは一瞬でも、下げるのには何年もかかる。

もうひとつ怖いのは、上がった生活費が「固定費」になりやすいことだ。家賃、車のローン、保険、通信費。これらは毎月勝手に引き落とされるので、本人はもう節約しているつもりでも、実は一番大きな穴が開いたままになっている。

今の時代は「名目の昇給」に浮かれてはいけない

最近は賃上げのニュースをよく見かけるようになった。実際、厚生労働省の毎月勤労統計調査(2025年分確報)を見ると、1人あたりの現金給与総額は月平均355,941円で、前年より2.3%増えている。

ところが、物価の上昇を差し引いた実質賃金は前年比マイナス1.3%で、4年連続のマイナスだ。つまり、額面の給料は増えていても、買えるモノの量で見るとむしろ減っている。

ここで「給料が増えたから、ちょっと贅沢してもいいか」と生活レベルを上げるとどうなるか。物価上昇で黙っていても生活費は膨らんでいるのに、そこへ自分から支出を上乗せすることになる。ダブルで穴を広げるようなものだ。

オヤジ論になってしまうが、給与明細の「増えた額」だけを見て喜ぶのではなく、「去年と同じ暮らしをするのに、いくらかかるようになったか」を一緒に見る習慣をつけてほしい。

私がやってきた「昇給分の振り分けルール」

昇給分の振り分けルール:半分以上は積立・投資、一部は物価上昇分、少しだけ楽しみに。固定費は上げない

では、昇給したらすべて我慢して貯金に回せばいいのか。私はそうは思わない。節約は幸せになる方法ではなく、お金を貯める方法だ。我慢ばかりの生活は長続きしない。

そこで私が若い頃から続けてきたのが、昇給分の振り分けをあらかじめ決めておくことだ。

  • 昇給分の半分以上は、最初から積立・投資に回す。給料日に自動で別口座へ移す設定にしてしまう。手元に来る前に移せば、そもそも「使える」と思わずに済む。
  • 残りの一部で、物価上昇分を吸収する。同じ暮らしを続けるだけでも生活費は上がるので、そのための余白を残す。
  • ほんの少しだけ、自分や家族の楽しみに使う。昇給は頑張った結果だ。ご褒美をゼロにすると、次に頑張る理由がなくなる。
  • 固定費は上げない。楽しみに使うのは「1回きりの出費」にする。家賃や車、毎月の契約は、昇給を理由に上げないと決めている。

大事なのは、割合そのものより「先に決めておくこと」だ。昇給してから考えると、人はたいてい使う方向に流れる。私もそうだった。だから、給料が上がる前に、上がったらどうするかを決めておく。

正直に言うと、資産が増えた今でも、私の暮らしは年収200万円台の頃とそこまで大きく変わっていない。家族で外食する回数が少し増えたくらいだ。娘には「うちってお金持ちなん?」と聞かれるが、見た目では分からないらしい。それでいいと思っている。

生活レベルを上げるなら「資産が生んだお金」で

コインが入ったガラス瓶

私は、生活レベルを上げること自体が悪いとは思っていない。問題は「何のお金で上げるか」だ。

給料という「自分の時間を差し出して得たお金」で生活レベルを上げると、その生活を維持するために一生働き続けることになる。一方で、積み上げた資産が生んでくれた運用益の範囲で暮らしを少し良くするなら、元本は減らないし、働き続ける必要もない。

お金を使うために貯めるのではなく、増やすために貯める。そして、増えた分で少しだけ暮らしを良くする。この順番を守るだけで、FIREまでの距離は驚くほど変わる。

もちろん、どれだけ投資に回すか、何に投資するかは人それぞれの状況による。最終的な判断は、ご自身でよく考えて決めてほしい。

まとめ

  • 収入が増えると支出も自然に増える「ライフスタイルインフレ」が、お金が貯まらない大きな原因になる。
  • 額面の給料が上がっても、実質賃金はマイナスが続いている。名目の昇給に浮かれて生活レベルを上げるのは危ない。
  • 昇給分の振り分けは、給料が上がる前に決めておく。特に固定費は上げない。
  • 暮らしを良くするなら、給料ではなく資産が生んだお金で。

昇給は、お金を貯めるための絶好のチャンスだ。上がった分だけ使ってしまうか、上がった分を未来の自分に回すか。その小さな選択の積み重ねが、10年後、20年後の大きな差になる。次の昇給が来る前に、ぜひ一度「上がったらどうするか」を決めておいてほしい。

投資より先に「生活防衛資金」。資産3億円になっても現金を手放さない理由

青い貯金箱とコインの入った小さな金庫

FIREを目指す人から「早く投資を始めたいんですけど、何から買えばいいですか?」と聞かれることがある。気持ちはよく分かる。でも僕がいつも最初に返すのは、銘柄の話ではなく「生活費の何か月分、すぐ使える現金を持ってる?」という質問だ。

年収200万円台の会社員だった頃、僕は一度だけ「現金が足りない」怖さを味わったことがある。会社の業績が傾いてボーナスがほぼゼロになり、同じ年に実家の用事で急な出費が重なった。当時の僕は、貯めたお金のほとんどを投資に回していた。しかもタイミング悪く相場は下がっていて、売れば損が確定する状態。結局、泣く泣く一部を売って穴埋めした。

あのとき痛感したのは、「投資でお金を増やすには、投資したお金に手を付けなくて済む状態を先に作らなあかん」ということだ。その土台が、今日のテーマの「生活防衛資金」である。

生活防衛資金は「投資を続けるための保険」

生活防衛資金とは、収入が途絶えたり大きな出費があったりしたときに、生活を守るための現金のことだ。病気やケガ、失業、転職のすき間、家電や車の故障、冠婚葬祭。人生には「来ると分かっているけど、いつ来るか分からない出費」が必ずある。

僕はこれを、投資を続けるための保険だと考えている。分散・長期の投資で一番大事なのは、途中でやめないことだ。ところが現金のクッションがないと、相場が悪いときに限って生活のために売る羽目になる。下がったところで売り、上がったときには手元に何もない。これでは、穴の開いたコップに一生懸命水を注いでいるようなものだ。

逆に言えば、生活防衛資金があるだけで、暴落のニュースを見ても「まあ生活には関係ないし」と放っておける。この「放っておける」という状態こそが、長期投資の一番の武器だと僕は思っている。

何か月分あればいいのか

よく「生活費の3か月〜1年分」と言われる。幅が広すぎて「どっちやねん」とツッコみたくなるが、これは人によって必要な額が違うからだ。僕の目安はこうだ。

  • 会社員で収入が安定している独身:生活費の3〜6か月分
  • 家族がいる、または片働き:6か月〜1年分
  • 自営業・フリーランス・収入の波が大きい人:1年分以上
  • 転職や退職を考えている人:次の収入が入るまでの期間+数か月分

ここで大事なのは「生活費」を正しく知ることだ。参考までに、総務省統計局の家計調査によると、2025年平均の二人以上の世帯の消費支出は1か月あたり314,001円で、前年より名目で4.6%増えている。物価が上がれば必要な生活費も上がる。数年前に決めた生活防衛資金の額が、今の暮らしには足りなくなっていることもあるので、ときどき見直したい。

ただし、平均はあくまで平均だ。僕は家計簿をつけて、自分の家の「本当に必要な生活費」を出してから計算することをすすめる。支出を見直して固定費が下がれば、必要な生活防衛資金も小さくなる。節約の効果は二重に効くわけだ。

生活防衛資金の目安と置き場所のポイント

どこに置いておくか

生活防衛資金は「増やすお金」ではなく「守るお金」だ。なので、置き場所の条件はシンプルである。

  • すぐ引き出せること(必要なときに数日待たされない)
  • 元本が減らないこと(株や投資信託には入れない)
  • 普段使いの口座と分けること(いつの間にか使ってしまわないように)

僕は給料が入る口座とは別の銀行に、生活防衛資金専用の普通預金を作っている。財布と金庫を分けるイメージだ。普段は存在を忘れているくらいでちょうどいい。

金額が大きくなってきたら、預金保険制度も頭に入れておきたい。金融庁の説明では、利息のつく普通預金や定期預金などの一般預金等は、1つの金融機関ごとに預金者1人あたり元本1,000万円までとその利息等が保護される。無利息など一定の条件を満たす決済用預金は全額保護の対象だ。上限を超えそうなら、金融機関を分けておくと安心できる。

資産3億円でも、現金は「ムダ」ではない

「インフレの時代に現金を寝かせておくのはもったいない」という意見もある。たしかに、物価が上がれば現金の価値は目減りする。僕も現金を必要以上に持つことはすすめない。資産の大部分は、分散して長く持つ投資に回している。

それでも、資産が3億円になった今も、僕は生活費の1年分以上を現金で持っている。理由は単純で、現金は「安心」と「選択肢」を買うためのコストだと思っているからだ。

現金があれば、相場が大きく下がったときに慌てて売らずに済む。家族が病気になったときに、お金の心配より看病を優先できる。会社で理不尽なことがあったときに「辞めても何とかなる」と思える。オヤジ論になってしまうが、この心の余裕があるかないかで、人生の判断の質はずいぶん変わる。

FIREとは、結局のところ「お金のために嫌な選択をしなくていい状態」のことだと僕は思っている。だとすれば、生活防衛資金はFIREの小さな第一歩だ。1か月分でも貯まれば、1か月分だけ自由になれる。

白い貯金箱と財布、紙幣とコイン

まとめ:投資は「守り」ができてから

  • 生活防衛資金は、収入減や急な出費から生活を守り、投資を途中でやめないための土台。
  • 目安は生活費の3か月〜1年分以上。働き方や家族構成で決める。まずは自分の家の生活費を知ることから。
  • 置き場所は、すぐ引き出せて元本が減らない預金。普段使いの口座とは分ける。
  • 物価が上がれば必要額も変わるので、ときどき見直す。

僕が年収200万円台からここまで来られたのは、何か特別な投資をしたからではない。支出を見直し、守りを固め、あとは分散して長く持つ。これを地味に続けただけだ。どの商品にどれだけ投資するかは、最後は自分で考えて決めてほしい。ただ、その前にまず「守り」を作る。始めるのは今日からでいい。

1. 出会い -憧れの生活-

これは、年収200万円で、30代で1億円を貯めた実話を元にした小説です。
全8話:
1. 出会い -憧れの生活-
2. 教えられたこと -使うためではなく増やすために貯金する-
3. 貯金開始、お金を増やしていく秘訣
4. お金が貯まる人と貯まらない人の差
5. お金を貯めるという事-必需品を見直す-
6. 節約における勘違い-安物買いは節約にあらず-
7. 支出を減らした後は収入を増やすこと
8. ユンとの別れ-豊かな未来へ向けて-

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1. 出会い -憧れの生活-

雄一は駅の改札口を抜けてから、いつもとは反対側に道を曲がった。そこの階段を下りていくと駅前の花屋だ。
今日は妻の誕生日。
家とは反対方向に道を曲がったのは妻に小さな花束を買うためだった。

新婚ではあるが、幸せと希望一色に満ち溢れた生活ではなかった。妻の事は愛していたし、夫婦間にも何も問題はなかった。生活は順調、ごくごく普通のサラリーマンで仕事にもプライベートにも大きな不満があるわけではない。
それでも手放しで幸せ一杯の生活だと言えないのには理由があった。

雄一には夢があった。世界中を旅したい。
そんな誰でも1度ぐらいは考えたことのある夢。雄一自身も子供じみた夢だと思っていたし、実現させる計画を立てているわけでもなかった。

学生の時には何度か海外旅行にも行ったが、学生時代は暇はあるがお金がない。バイトで貯めたお金で行った海外旅行は、ごく普通のツアー旅行やアジアへのバックパック旅行だった。もちろん雄一は普通の旅行もバックパックスタイルも嫌いではなかったし、大いに自由な学生時代を楽しんでいた。

学校を卒業し、就職し、働いて、結婚し、何の疑問もなく平和に暮らしていたのだが、結婚半年後にとったハネムーン休暇で妻と海外旅行へ出かけた時、かつての「世界中を旅したい」という夢を思い出してしまった。

一生に一度の新婚旅行ぐらいは贅沢に、と考えての豪華な1週間旅。雄一はその旅行の余韻に取りつかれてしまっていた。

生活は順調、特に大きな不満もない人生なのに、どこか気分が浮かないのは、かつての自分の夢と、今の現実のギャップを意識してしまったせいだった。

しかし、夢と現実のギャップを意識したからといって、それをどうする訳でもなく、今まで通りに働き、今まで通りにお金を稼いで暮らしていたのだった。

考え事をしながら歩き、ふと視線をあげると目的の花屋の前についていた。雄一はその扉を開けて店内へ入っていった。店内には先客が1人。身なりのいい老人が花屋の店主となにやら話をしているだけだった。

この駅前の花屋には何度か来たことがあったが、先客がいたのは初めてのこと。雄一は、先客の老人の用事が終わるまでしばらく店内で時間を潰すことにした。

小さな店内には切り花を中心にディスプレイされていたが、基本的には花に興味のない雄一はすぐに手持無沙汰になってしまった。

ふと花屋の店主と初老の男性が話している内容が耳に入ったが、どうやらスイスの話をしているようだった。

『なんだ、花を買うんじゃないのなら早くしてくれよ。』

そう心の中で呟くと、まるでその心の声が聞こえたかのように老人が振り返った。

「ああすまないね、お客様かな。」

「え、ああいや…小さめの花束をお願いしようかと思いまして。」

「いらっしゃいませ。」
遅れて、店主も今気づいたように挨拶をした。

「じゃあユンさん、近いうちにまた…」

少しの間をおいて、老人が花屋の店主に別れの挨拶を切り出した。

「いや急いでるわけじゃありませんから、話終わってからで大丈夫ですよ。」

雄一も急かしたようになってしまい悪かったなと思い、心の中で呟いた愚痴の弁解をしたが、それでも老人は話を切り上げて、店主と雄一に上品にお辞儀をしてから店を出ていった。

雄一は少しばつが悪い気がしたが、謝る事でもないかなと思いなおし、店主に花束をお願いした。

アレンジの準備をしてもらっている間、横で待っていると、沈黙を嫌ってか今度は花屋の店主の方から話しかけてきた。

「これは奥様に?」

「はい。今日が結婚1周年なんですよ。」

「そうなの?じゃあ少しおまけして大きいのを作るわね。」

「ありがとうございます。きっと喜びます。」

テキパキと花を選んで、アレンジを始め、花束が見事に出来上がっていくのを眺めていると、また店主が尋ねてきた。

「ヨーロッパとか好きよね?」

「え?スイスですか?」

「スイスが好きなの?」

「いえ、さっきの男性とスイスの話をしているようだったので、その話ですか?」

「え?ああ違うわよ。奥様はヨーロッパとか好きよね?アジアが好きなら、花束をもっとアジアンテイストにアレンジしようかと思ってね。」

「え、ああ、はい。妻はヨーロッパの方が好きだと思います。」

小さくうなずいてから、店主は話を続けた。

「さっきスイスの話をしていたのは、あの人とスイスに行った時の話をしていたのよ。ああ、スイスに行ったといっても、2人で旅行に行ったわけじゃなくて…偶然同じクルーズ船に乗っていてね。寄港地のオランダからスイスまでの列車でも近くの席だったから仲良くなってたのよ。
それからちょくちょくこのお店にも寄ってくれるようになったの。偶然この近くに住んでいたのよ。」

「ああ、そうだったんですね。いやーでもスイスですか。いいですね!私も旅行は好きで…。それにしてもお花屋さんって結構儲かるんですね?」

雄一は店主のフレンドリーな応対に、つい不躾な事を聞いてしまったと思ってハッとしたが、花屋の店主は気にした素振りもなかった。

「ぜーんぜん。私は花が好きだからこの仕事をしてるだけだわ。」

楽しそうに花束をくるくると躍らせながらアレンジの最後の仕上げに入ったようだった。雄一は少し興味が湧いてきて、失礼ついでに聞いてやれと思い、続けて尋ねた。

「でも、えーっとユンさん?..は、クルーズ旅行ができるぐらいは稼いでるわけでしょう?」

と、先ほど老人が呼んでいた店主の名前を改めて口に出して、雄一は、ユンと呼ばれた店主の日本語がほんの少しだけカタコトなのに気がついた。
ユンという名前からしても、おそらく韓国訛りの日本語だろう。

「まさか。この花屋の稼ぎだけじゃ生活費にしかならないわよ。私も昔は普通に会社勤めをしてたからね。その時にお金を貯めていたのよ。」

「そうですか。私もサラリーマンですが、スイスには行けそうもありません….ははは、えらい違いですね。」

「きっとそんなに違わないと思うわ。普通にアパレル店の店員で、その後営業になったけど、それほど大きな会社でもなかったしね。
私、大学から日本に来て、卒業して、そのまま日本で就職したけど、当時はあんまり社会の事も分かってなかったしね。」

雄一は少しムキになって聞いてみた。

「じゅあご実家が資産家とか?」

「いいえ違うわよ。」

この質問にもユンさんは全く気を悪くしていないようだった。外国人特有のフレンドリーな気質なのかもしれない。と雄一は思った。

「簡単な事よ。お金を貯めるコツがあるの。」

「じゃあ俺にもぜひそのコツを教えてほしいですね。俺もサラリーマンですが、スイスへの豪華旅行には憧れますから。」

「はい。3000円です。」

「え?ああ、ありがとうございます。」

気付けば、花束が出来上がったようだ。雄一は財布から3000円を取り出しながらも、ユンさんに目くばせで話の続きを促した。

「もちろん教えてあげるわ。と言いたいのだけれど…ごめんなさいね。今日実は息子の誕生日なの。今から急いで帰らなきゃ。ケーキ屋さんが閉まっちゃうから。あなたも結婚記念日なんでしょ?」

雄一はハッとした。

「そうだ、早く帰らないと。せっかく会社を定時であがらせてもらったのに。」

雄一は花束と荷物を持ち直して、テキパキと店じまいを始めたユンさんに頭を下げてから背を向けた。
お店を出る所で

「ありがとうございました。またいらっしゃってね。」

と背中から声が聞こえた。